研究概要 |
前年度までに得られた分裂病性思考障害に関する成果に基づき,今年度は寛解状態にある分裂病患者を対象として,Thought Disorder Index(TDI)による思考障害の評価,Wisconsin Card Sorting Test(WCST)によるワーキングメモリーの評価,Wechsler Memory Scale-Revised(WMS-R)による記憶機能の評価,Wechsler Adult Intelligence Scale-Revised(WAIS-R)による知能の評価を行い,分裂病性思考障害と高次脳機能との関連について検討した.分裂病患者における思考障害の特徴およびワーキングメモリーの障害が確認されたが,TDI得点とWCSTの達成カテゴリー数,保数エラー数との間には有意な相関が認められなかった.したがって,分裂病性思考障害はワーキングメモリーの障害のみで一元的に説明できないものと考えられる.WMS-R成績より,分裂病者において視覚性,言語性記憶機能の障害が存在することが認められたが,WMS-RとWCSTの成績との間には有意な相関を認めなかったことより,分裂病の記憶機能とワーキングメモリーは別のメカニズムであると考えられる.また,TDI総得点とWAIS-R「類似」成績との間,およびWMS-R言語性記憶とWAIS-R「絵画完成」,「絵画配列」,「類似」との間に有意な相関を認め,分裂病における記憶機能の障害と意味性,概念性,物語性などの統合化や組織化,関係把握,概念形成などの機能の障害との関連,分裂病性思考障害とカテゴリーを用いて思考する能力の障害,意味システムの障害との関連が示唆された.WCST達成カテゴリー数による群分けを行うことによる群間比較の結果からは,カテゴリー達成には言語性記憶,WAIS-R「絵画完成」,「絵画配列」,「類似」が関連していることが認められた.これらの成績は,第53回東北精神神経学会総会,第22回日本生物学的精神医学界で報告し,その成果の一部が雑誌「臨床神経心理」に掲載された.
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