研究概要 |
本年度においては,健康被験者20名を対象にして磁気刺激を片側の側頭部に加え,脳梁を経由した反対側の側頭部の反応(脳梁反応)を記録した。これは,平成11年度に行う予定である精神分裂病患者を対象にした脳梁反応を検討する際の,コントロールとなるデータを蓄積するためのものであった。今回,磁気刺激を用いた脳梁反応をもっとも安定して記録できるのは,側頭部後部直上を刺激した場合であることが確認できた。しかし,今回の研究により,本法を用いた研究に付随して発生するいくつかの問題点も明らかになった。その第1点目は,側頭部を磁気刺激した場合には近傍の三叉神経の知覚枝も同時に刺激されるために,被験者によって痛覚を伴った独特の違和感を訴えた。このことから,一部の被験者では脳梁反応を得るのに十分な強さの磁気刺激を加えることができない場合があることがわかった。この問題点は,平成11年度に行う精神分裂病患者を対象にして行う研究では,患者に苦痛を与えないことを第一に考慮するべきであることから,今後に改善を要する点であると考えられた。第2点目の問題点は,同一部位を磁気刺激しても刺激コイルをあてる方向の微妙な差違によって,脳梁反応の振幅は当初に予想された以上の大きな変化をすることがわかった。このことから,振幅よりも安定性や再現性に優れている潜時についても,脳梁反応を評価するためのもう一つの指標として同時に測定するべきことがわかった。以上の2つの問題点を解決する努力を今後も続けてゆくことが必要であると判断された。さらに,現在まで用いてきた方法の他に,2連発磁気刺激を用いて脳梁を介して左右の運動野の互いの抑制効果を評価することによって,左右の大脳半球間の連絡を検討する方法も模索するべきであると考えられた。
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