研究概要 |
はじめに、磁気刺激による脳梁反応の再現性を高めるための刺激系と記録系の検討を、健康被験者23名を対象にして行った。その結果、刺激系については刺激コイルとして8の字コイルを用いて頭皮上の中心部から側頭部にかけての領域を刺激することが有効であることが判明した。また、記録系については電極のシールドをしてデジタル脳波計を用いることが有効であることが判明した。次に、この成績をふまえて刺激と記録をこれらの方法に統一して、健康被験者15名と精神分裂病患者6名を対象として脳梁反応を記録した。脳梁反応は8の字コイルの直下の部位の半対側の大脳半球より、刺激からの頂点潜時が約15〜20msecの陽性の電位変化として記録された。左半球から右半球への連絡に関する脳梁反応の頂点潜時についても、また、右半球から左半球への連絡に関する脳梁反応の頂点潜時についても、健康被験者と精神分裂病患者との間で統計学的な有意差を認めなかった。ただし、健康被験者15名の中で脳梁反応を左右両方向の連絡について記録ができた10名に関して、その中の全例において左半球から右半球への連絡に関する脳梁反応の頂点潜時が、その反対方向の脳梁反応の頂点潜時より短かった。これに対し、精神分裂病患者6名の中で脳梁反応を左右両方向の連絡についても記録ができた5名に関して、その中の4例において健康被験者とは逆に右半球から左半球への連絡に関する脳梁反応の頂点潜時が、その反対方向の脳梁反応の頂点潜時よりも短かった。このことから、健康者では左右の大脳半球間の情報連絡の速度の非対称性が存在しており、一方,精神分裂病患者ではそのような非対称性が保たれていないか、もしくは、逆転している可能性があると考えられた。このような精神分裂病患者における大脳半球間の情報連絡の異常が、本疾患の陽性症状を生起させることに関連している可能性があると推測された。
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