研究概要 |
本研究では、ラット大脳皮質前頭部・海馬を対象とした。cAMP response element binding protein(CREB)の発現及びCREBリン酸化はimmunoblot法で、calcineurin(CaN)発現はNorthren blot, in situ hybridization法で、CaN活性はセリン/スレオニン フォスファターゼ活性を用いた。 1)CREBリン酸化に及ぼすストレス・抗うつ薬の影響 急性拘束ストレス(ARS)にてCREBリン酸化は時間と伴に亢進し、ストレス終了30分後にピークをとる一過性の発現低下を示した。抗うつ薬急性投与によってCREBリン酸化の有意な亢進がみられたが、慢性投与では有意な変化はみられなかった。抗うつ薬慢性投与後にARSを行ったが、ARSによる有意なCREBリン酸亢進は抑制されていた。ARS・抗うつ薬急性・慢性投与いずれの条件下でも、有意なCREB発現変動はなかった。 2)CaN発現・活性に及ぼすストレス・抗うつ薬の影響 ARSにてCaN発現には、有意な変化はなかった。抗うつ薬急性・慢性投与によっても、CaN発現に有意な変化はなかった。ARSにてCaN活性に有意な亢進が得られ、抗うつ薬急性・慢性投与によっても有意な活性亢進が得られた。 3)ストレス脆弱性形成とCREBリン酸化及びCaN活性 外傷後ストレス障害のモデルでもあるsingle prolonged stress(SPS)を用いてストレス脆弱モデル作製後、ARS負荷によるCREBリン酸化・CaN活性を尺度としたストレス反応性を、SPS+ARS群・ARS群・未処置群で比較した。未処置群と比較して有意なCREBリン酸化・CaN活性亢進が前2群ではみられ、SPS+ARS群では有意ではないがARS群に比べてCREBリン酸化・CaN活性亢進がみられた。 以上の結果から、1)ストレス性精神障害にはストレスによる転写因子CREB活性化に伴う遺伝子発現変動が関与する、2)抗うつ薬の治療効果はCaN活性化によるストレス性CREB活性化の抑制が関与する、3)ストレス脆弱性はストレスによるCREB活性化の著明亢進に伴う遺伝子発現変動が関与する、などが示唆されたと思われる。
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