1.人格のおよそ50%は親からの遺伝によると考えられている。その遺伝的背景にせまるため遺伝子多型と人格傾向との関連を検討した。健康成人100名と双極性障害患者90名について、セロトニントランスポーター遺伝子転写調節領域、ドーパミントランスポーター遺伝子3'非翻訳領域、ドーパミンD4/D3受容体遺伝子、レニン・アンギオテンシン変換酵素の遺伝子多型についてPCR法にて頻度を検討した。セロトニントランスポーター転写調節領域(5-HTT gene-linked polymorphic region:5-HTTLPR)の多型に関しては双極性患者群で短い塩基配列を持つ対立遺伝子(s allele)の頻度が有意に高いことがわかった。この遺伝子多型には人種差があり、日本人は白人よりs alleleが高頻度にみられた。 2.気分障害患者にはいくつかの特徴的な病前性格が知られているが、人格の5因 子次元モデル(big five)に基づくNEO質問紙を用いて、気分障害の患者における人格傾向の特徴を病型別に比較した。健康成人200名と寛解状態の気分障害患者215名(双極性障害91例、大うつ病性障害124例)について、NEO質問紙と両親の養育態度をみるPBI質問紙を用いて評価を行った。その結果、NEOの「外向性」スコアの得点は大うつ病患者群で低く、「開放性」のスコアにおいては双極性障害患者は大うつ病患者より高いことがわかった。 3.双極性障害発症の要因のひとつとして脳内セロトニン神経系およびドーパミン神経系の機能障害が想定されている。そこで我々はセロトニントランスポーター(5-HTT)遺伝子の多型、ドーパミンD4レセプター(D4DR)およびドーパミントランスポーター(DAT)遺伝子の繰り返し配列多型に関して遺伝子型の分布と対立遺伝子の頻度を、双極性障害患者群と対照群との間で比較検討した。その結果、双極性障害患者と5-HTT遺伝子のプロモーター領域多型との間に有意な関連が認められた。
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