研究概要 |
メタンフェタミン(METH)投与による行動感作(逆耐性現象)に於いてカルシウムに依存した機序を検討し、METHによる精神障害の病因を明らかにすることを目的とする。 1.(平成10年度):METH 4mg/kgの急性投与から2時間後に於いてカルモジュリンのmRNAであるCaM Iは線状体と側坐核で減少し、カルモジュリンの量も線状体で減少した。METH 4mg/kgまたは生食を1日1回、14日間反復投与し、28日間休薬した後にMETH 4mg/kgまたは生食をチャレンジすることによって4群を設定し、チャレンジから6時間後に断頭した。METHのチャレンジによって膜分画のカルモジュリンが中脳辺縁系、海馬、前頭葉皮質で増加していた。このことはMETH反復投与後、可溶性分画から膜分画へカルモジュリンのtranslocationが引きおこされることを示唆している。 2.(平成11年度):カルシウムカルモジュリン依存性プロテインキナーゼII(CaM-kinase II)はカルシウムをセカンドメッセンジャーとする細胞内情報伝達系を構成し、脳に豊富に存在する多機能性プロテインキナーゼである。METH急性投与では5カ所の脳部位においてCaM-kinase II活性は3時間後をピークに有意な低下を認め、選択的D1受容体拮抗薬及び選択的NMDA受容体拮抗薬の前処置によりこの低下は抑制された。METH慢性反復投与後の再チャレンジによってCaM-kinase II活性はMETH急性投与後の活性に比べてさらに有意に低下していたが、CaM-kinase II蛋白の変化は認められなかった。これらの結果からMETH急性投与によるCaM-kinase II活性の低下はドーパミンD1受容体及びNMDA受容体を介しており、またMETH慢性反復投与後の行動感作の発現にCaM-kinase IIが関与することが示唆された。 3.(平成12年度):抗精神病薬の前処置がMETHの急性投与によるCaM-Kinase II活性減少に影響を与えるかどうかを検討した。Olanazapineは大脳皮質に於いてMETHによるCaM-Kinase II活性減少を阻止した。Nomonapride, Risperidoneにはこの阻止効果がなかった。
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