シグマ受容体タイプ1はほ精神機能に大きな役割を果たしていると考えられているが、詳細は明らかではない。ヒトとguinea pigでcDNAクローニングされているので、この両者のアミノ酸配列の相同性部分である30-37番と166-173番のアミノ酸配列に対応する変性プライマーを作成した。ラット脳から抽出したmRNAをcDNAに変換し、PCR法にてラットのシグマ受容体タイプ1のcDNAをクローニングした。その結果、ヒトとguinea pigのシグマ受容体タイプ1とそれぞれ90%と87%の相同性を示した。また、それ以外の既知のcDNAとは相同性を示すものはなかった。このクローンしたラットシグマ受容体タイプ1のcDNA塩基配列から、3ヶ所で(翻訳領域、3'側および5'側の非翻訳領域)45merのoligonucleotideのantisenseを作成し、ラット脳でin situ hybridizationを行ったが、明らかなシグナルは得られなかった。また、脳ホモジネートのtotal RNAによるNorthern blotでもmRNAは捉えられず、ラット脳ではシグマ受容体タイプ1のメッセンジャーRNAの発現が非常に少ないことが明らかになった。一方、蛋白レベルをautoradiographyで調べた。これまで、シグマ受容体の食いリガンドがなかったが、Na^+非存在バッファーと[^3H]YM09151-2を用いることでシグマ受容体のautoradiographyが可能であることを見出した。これを用いて脳内分布を調べたところ、皮質、海馬、赤核などに多く分布することがわかったが、guinea pigに比べて、その受容体密度が低く、蛋白レベルでもラット脳にはシグマ受容体タイプ1の発現は比較的少ないことが分かった。ラットにmethamphetamine(METH)慢性反復投与し精神病モデルラットを作成した.精神病モデルラットでは内側前頭前野、海馬、黒質、小脳でのシグマ受容体結合が増加していた.このうち、前頭前野と海馬の増加はMETH投与を中止21日後でも持続してみられ、精神病性変化に対応するものと考えられた。 一方、人での精神病への関わりを検討するために、覚せい剤精神病患者104名と年齢・性別の一致した正常対象者117名において、ヒトシグマ受容体タイプ1遺伝子の2つの多型(プロモーター領域のGC-241-240TTと、exon1のGln2Pro)を検討した。その結果、プロモーター領域多型の遺伝子頻度、アレル頻度は正常者と覚せい剤精神病患者間で、有意差は昭められず、遺伝子レベルでの変化が覚せい剤精神と相関しないことを明らかにした.
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