研究概要 |
妊娠動物(ラット)に放射線を照射し、発達障害モデル実験動物を作製し、海馬の形態学的異常の検索、特に神経回路の形成に及ぼす影響を研究対象とした。X線照射は妊娠15日の動物に実施され、その線量は0.3,0.6,1.2,1.8Gyであり、生後6週の脳組織が研究に用いられた。海馬に対する影響は0.6Gyから現われ、CA3領域で錐体細胞の軽度脱落および層構造の乱れが見られたが、CA1や歯状回では組織学的変化は認められなかった。1.2Gy以上では小頭症に伴う大脳皮質の菲薄化、脳梁欠損、異所性皮質の出現等があり、海馬では側脳室への突出変形が見られ、CA1領域の層構造の乱れおよび錐体細胞の数の減少とstratum oriens,lucidumへの偏在があった。CA2〜CA3では錐体細胞の脱落とこれに伴う同層の極端な菲薄化が特徴であった。また、CA3領域の錐体細胞はアンモン角の他の領域よりもX線照射の影響を強く受けることが明らかにされた。 一方、Timm法による研究では海馬におけるMossy fiberは0.3Gyから組織学的変化が現われ始め、異所性終末線維は特にCA3a-b領域でstratum oriensに存在するのが特徴的であり、放射線量の増加とともにこの傾向は顕著なものとなった。さらに、1.8Gyの場合は錐体細胞層までこの線維の侵入するのが観察された。これらの所見により、神経回路を含む大脳発達に及ぼす放射線量はおよそ0.3Gy以上であるという研究結果が得られた。
|