平成10年度は痴呆性疾患のうちアルツハイマー型老年痴呆(初老期発症;AD、老年期発症;SDAT)の視空間認知障害の発生機序および診断法を確立するために、主に眼球運動と視覚に関連する協調運動について検討を行なった。対象はAD、SDATおよび血管性痴呆(MID)、老年健常者(HC)をコントロール群とし、構成行為時の眼球運動および周辺視での眼球-頭部協調運動(EH)、眼球-頭部-手協調運動(EHH)をvision analyzer(竹井器機)を用いて客観的に測定し以下の結果を得た。 1. 模写と眼球運動 (1) 定性的所見:AD群では右側半側空間への眼球運動の偏在、注視点の右半側空間への集中が認められるなど左半側無視(LNS)傾向が認められた。LNS傾向はAD>SDAT>MID=HCの順で強くみられた。 (2) 定量的所見:平均眼球運動速度分布(AGV)ピークはHCは4-8deg/secであったがADではこれより速い速度、遅い速度へのシフトが認められた。この傾向はAD>SDAT>MID≧HCの順に強くみられた。 (3)摸写方法による変化:LNS傾向を示したAD、SDATにおいて原図の右側に模写する場合(1)であったが、左側に模写する場合は眼球運動の偏在、注視点の右半側空間への偏在は軽度となり定性的にも定量的にも眼球運動の異常は軽度となった。 2. EH & EHH (1) EH:左右にある視標に視線移動を行なう時、MID、SDAT、HCと比較してADでは眼球だけが指標方向へ移動し頭部運動が生起しないという特異な所見がえられた。 (2) EHH:EHでは頭部運動が見られないADの一部の患者では指差し運動を加えて左右指標を見る際には頭部運動が生じることが明らかになった。 以上1.の結果からADではLNS傾向があり、右側空間への注視の偏在、作業空間の左側空間の無視が存在しまた1.(3)より開始時の作業空間への固着が予想された。また2.(1)よりEHの相互座標協応に異常が存在するが、2.(2)より体性感覚がEH協応を補正する可能性が示唆された。 なおfMRIについては目下刺激指標装置などについて予備的検討をおこなっている。
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