研究概要 |
これまでの一連の研究経過から、ラットに慢性に有機溶剤を曝露させると脳内の海馬や前頭葉において神経細胞障害を呈することが明らかとなり、ヒトにおいても類似の病態が推測されるところである。この変化が不可逆的なものか、或いは脳循環代謝改善剤等の投与により、ある程度回復可能なものか、さらには乱用の初期に使用すると神経細胞障害に対して予防効果がみられるのかどうかを治療的観点から解析を試みた。 実験動物はウィスター系雄性ラットを用いた。トルエン曝露は以下の方法でおこなった。動物を透明なプラスティック容器(60×40×35cm)内にトルエン(2ml,2000ppm)を吸収させたろ紙の入ったシャーレを置き、その中に飼育ケージごと動物を、8:00〜10:00と、14:00〜16:00に2時間ずつ、1日合計4時間で3カ月間の吸入曝露を続けた。対照動物も同様の処置をトルエンの入っていない別の容器を用いて同時に行った。曝露群では同時に脳循環代謝改善剤(塩酸ビフェラミン)を投与した動物も作成した。さらに曝露終了後3カ月間、塩酸ビフェメランを投与した群も作成した。また、容器内のトルエン濃度・酸素濃度も経時的にチェックした。 動物を4%パラホルムアルデヒド(0.1Mリン酸緩衝液)で潅流固定、電子顕微鏡観察では、海馬・前頭葉を取り出し、オスミウム固定の後型通りにアセトンで脱水後、エボン包埋し、海馬顆粒細胞と前頭前野葉の全層について観察した。曝露群(脳循環代謝改善剤(-)群)では従来観察してきたように海馬顆粒細胞の変性(細胞死、空胞変性の出現、細胞内小器官の形状の不整、シナプス形状の変化)がみられた。新たに、前頭前野の神経細胞にも変性所見がみられた。 1メッシュあたりの変性細胞数をカウントしたが、現在までのところ、統計学的解析が終了していないので、次年度にまとめて報告する。
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