精神分析病の神経障害仮説の神経生物学的な基礎を明らかにするために、我々は、ラットの胎生期あるいは新生仔期に精神分裂病発症のrisk factorと考えられている向精神薬を負荷とするという精神分裂病の動物モデルを作成することを試みた。 平成10年度は、新生仔期にシナプス形成に関与しているドーパミンD1受容体と一酸化窒素(NO)に注目した。それぞれドーパミンD1受容体のantagonistであるSCH23390およびNO合成酸素(NOS)の阻害薬であるN-nitro-arginine methyl ester(NAME)を生後2日目から2週間投与した。生後35日目に、methampetamineを投与し、引き起こされる常同行動を指標として、ドーパミン系の感受性に変化があるかを検討した。その結果、新生児期のSCH23390投与によっては、成熟期のラットのドーパミン感受性には変化がなかったが、NAME投与によって成熟期でのラットのドーパミン感受性が低下していることがわかった。 平成11年度は、新生仔期にNMDA受容体のantagonistであるphencyclidineとagonistであるD-serineを同じスケジュールで投与した。いずれも生後35日目のmethamphetamineによる常同行動を観察した。Phencyclidineの新生児投与により、常同行動は減弱し、methamphetamine投与による脳内c-fos mRNAの発現も抑制された。しかし、D-serineの処置は常同行動に何らの影響も与えなかった。 以上の結果から、新生児期の神経発達を阻害する薬物の投与によって、成熟期でのドーパミン感受性に影響を与えることがわかった。さらに、精神分裂病で想定されているドーパミンの過感受性を引き起こすような新生児期での処置を企画している。
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