本研究は、薬物依存の機序解明において、薬物依存の本態とされる精神依存(薬物に対する渇望)に注目し、“薬物に対する渇望゙を形成する要因として、(1)退薬症候(離脱症状)による不快感(平成10、11、12年度)、(2)薬物の報酬効果に条件付けられた環境刺激(平成13年度)の二要因について、脳内神経学的背景の検索を行う。 平成10年度の研究では、研究実施計画に従って、第一の要因である“退薬症候による不快感"の機序として、“脳内報酬系の代償性機能低下"を考え、まず、各種依存性薬物の脳内報酬系に対する急性効果を検討した。すなわち、ラットを用いて依存性薬物の報酬効果発現に関与するとされる外側視床下部に電極を植え込み、脳内自己刺激行動におよぼす覚醒剤(メタンフェタミン:MAP)とニコチン(NCT)の効果を検討した(当初の研究実施計画では電極の植え込み部位は腹側被蓋野としたが、予備実験において安定した脳内自己刺激行動が得られなかったことから、他の脳内報酬系の部位である外側視床下部に変更した)。実験では、sd系雄性ラットをオペラント実験箱の中に入れ、ラットがレバーを押すと電極を通じて電気刺激(72Hz、200〜800μA)が動物に与えられる脳内自己刺激行動を形成した。そして、レバー押し行動を発現させる電気刺激の最小値を求めた。次に、脳内自己刺激を発現させる電気刺激の最小値におよぼす両薬物の効果を検討した。この結果、MAPとNCTのいずれにおいても皮下投与により脳内自己刺激を生じる電気刺激の最小値は減少した。以上のことから、MAPとNCTは急性投与によって、脳内報酬系の感受性を亢進させる、すなわち、報酬系を刺激することが示された。なお、現在、他の依存性薬物であるコカイン、モルヒネなどについても同様の検討を行っている。 平成11年度では、上記薬物を慢性投与し、退薬発現時の脳内報酬系におよぼす影響を同様の方法で検討する。
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