薬物依存の発現にかかわる脳内神経学的機構の研究

2000 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 10670919
• 研究機関: 東京慈恵会医科大学
• 研究代表者: 宮田 久嗣 東京慈恵会医科大学, 医学部, 講師 (70239416)
• 研究分担者: 勝 久寿 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助手 (30307425)
• キーワード: 薬物依存 / 渇望 / 退薬症候 / 脳内報酬系 / 脳内自己刺激実験 / 条件性場所嗜好実験 / ラット

研究概要

本研究は、薬物依存の機序解明を目的として、薬物依存の本質とされる精神依存(薬物に対する渇望)を形成する(1)退薬症候(離脱症状)による不快感(平成10、11年度)と、(2)薬物の報酬効果に条件付けられた環境刺激(平成12、13年度)の二要因を、精神障害を起こす代表的な依存性薬物である覚醒剤(メタンフェタミン:MAP)と、日常嗜好品であるタバコに含まれるニコチン(NCT)についてその脳内神経学的背景を検索した。
平成10、11年度の結果から、退薬時にはNCTと比較してMAPにおいて強い報酬系の感受性低下が生じ、この報酬系の感受性低下が、退薬時の不快感に関連し、薬物への渇望(精神依存)の発現に関与している可能性が考えられた。この結果を受けて、本年度(平成12年度)は、退薬時の脳内報酬系の機能低下が、実際に退薬時の不快感に関連したものであるか否かを条件性場所嗜好(CPP)実験により行動薬理学的に検討した。実験では、平成11年度と同様にMAPまたはNCTをラットの皮下に植え込んだ浸透圧ミニポンプで1週間持続的に投与した後に、拮抗薬(ハロペリドールまたはメカミルアミン)にて退薬を起こした。この結果、MAP、NCTともに一般行動に影響をおよぼさない拮抗薬の用量でCPP装置の拮抗薬投与側の区画の滞在時間が短縮した。このことは、拮抗薬投与側の区画はラットにとって嫌悪的であり、両薬物の退薬により嫌悪効果(ヒトでの不快感に相当)が生じていることを示唆するものと考えられる。さらに、薬物間の比較を行うと、NCTと比較してMAPの方が拮抗薬投与側の滞在時間の短縮が顕著であったことから、退薬時の嫌悪効果はNCTよりもMAPの方が強いことが示された。
平成13年度では、この薬物の報酬効果の環境刺激への条件付けにかかわる脳内機序の検索を行う。

研究成果

• [文献書誌] Hisatsugu Miyata: "Medial prefrontal cortex is involved in the discriminative stimulus effects of nicotine in rats"Psychopharmacology. 145・99. 234-236 (1999)
• [文献書誌] Hisatsugu Miyata: "Neur obiological mechanisms of nicotine craving"Alcohol. (in press). (2001)
• [文献書誌] Hisatsugu Miyata: "Nicotine, alcohol, methamphetamine, and inhalant dependence : a comparison of clinical features with the use of a new clinical evaluation form"Alcohol. (in press). (2001)
• [文献書誌] 宮田久嗣: "ニコチンと情動"脳の科学. 22・9. 1003-1007 (2000)
• [文献書誌] 宮田久嗣: "ニコチンおよび各種薬物依存の臨床像の比較に関する研究"日本神経精神薬理学雑誌. 19・4. 187-194 (1999)
• [文献書誌] 宮田久嗣: "ニコチン依存とその機構"日本アルコール・薬物医学会雑誌. 33・5. 557-573 (1998)
• [文献書誌] 宮田久嗣: "他の薬物依存と脳障害-ニコチン-臨床精神医学講座第8巻(薬物・アルコール関連障害)"佐藤光源,洲脇寛(編),中山書店,東京. 13 (1999)
• [文献書誌] 宮田久嗣: "中毒性精神病の診断と対応-薬毒物による中毒・依存-プライマリ・ケアのための心の病診療プラクティス"清水信,中山和彦(編),永井書店,大阪. 12 (1999)