研究概要 |
てんかん患者にみられる精神病は不均質で多様な病態からなり、その脳機能や脳形態変化を研究するにあたって、妥当な診断分類を基本とする必要がある。そこで今年度はてんかん精神病の分類に関する従来の文献を網羅して新たな多軸分類を提案し、分類基準を定式化した。これに基づいて、てんかん診療を行っている6施設の共同研究により計128例のてんかん精神病例を集積した。平均年齢39.4±12.8歳、てんかん発症年齢13.3±9.8歳、精神病発症年齢27.9±9.3歳であった。多軸診断の第1軸はてんかん類型と焦点側をコードし、特発性全般てんかん7%,症候性全般てんかん6%,側頭葉てんかん48%,その他の局在関連てんかん35%で、すべてのてんかん類型がみられた。焦点側は左側29%と右側27%が同頻度で、両側焦点例が14%にみられた.第2軸は精神病類型と経過類型をコードし、妄想型分裂病様障害41%、妄想性障害19%、急性一過性精神病性障害17%、破瓜型分裂病様障害10%が多く、緊張病性障害7%、幻覚症6%は少なかった.経過類型は、単一エピソード24%、反復性34%、慢性34%がほぼ同頻度でみられた.第3軸は発作および脳波との関連をコードし、発作間欠期発症が69%,発作後精神病16%,交代性精神病6%,発作増加時精神病3%であった.脳波不変例が38%と多く,脳波正常化例は4%と少なかったが、精神病発症時に脳波検査を施行できない例が52%と少なくなかった.第4軸は発病背景をコードし、特有の性格特徴を有する例が20%、抗てんかん薬治療の変更が関与した例が14%、他の精神障害の併存が12%、明らかな心理環的要因が前駆した例が10%みられた.第5軸は器質的背景をコードし、画像診断で確認できる脳病変が38%、知的障害をもつ例が30%、既往歴で確認できる脳病変が27%であった.てんかん精神病の多様性が改めて明らかとなり、本多軸分類の妥当性が確認され、来年度のてんかん精神病の脳機能や脳形態変化を研究する際の基本とする。
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