経時的に採血をした感染者の血清を用いて、gp41の二つのアルファヘリックス領域由来のペプチドに対する抗体産生を観察すると、N端のDP107に対する抗体が経時的に低下し、その低下は血清中のウイルス量と反比例していた。N+Cペプチドよりなる融合殻構造に対する抗体産生の有無をヒト型モノクロナル抗体を用いて検索した。融合殻構造を構成するgp41を認識する抗体で98-6抗体と50-69抗体はそれぞれC端とN端の立体構造エピトープを認識する。特に98-6抗体はC34に弱く反応するが、N36を加えると更に反応性が増強し、融合核構造が出現した際のエピトープであることが、明らかになった。融合殻構造は理論的にはウイルスと細胞の融合直前に出現する構造であり、感染者由来の抗体がそれらの構造を認識することは、予想外であった。そこで98-6抗原と59-6抗原の発現様式を様々なウイルス蛋白で検討すると、精製ウイルス粒子には3量体、4量体のみに両抗原が存在するが、感染細胞内にはgp160とmonomeric gp41に両抗原が存在する。以上より融合核構造エピトープは感染の際に一時的に出現するものではなく、細胞内のgp120/41の前駆体で発現し、精製ウイルスに成熟した段階で、3量体に特異的なものであることが明らかになった。これらの抗体の中和活性をLuciferaseを用いたsingle round assayで測定すると、98-6抗体には中和活性は認められなかったが、50-69抗体には中和活性が認められた。これらのことは、HIV-1の膜貫通糖蛋白gp41の構造と機能の関連を示す手がかりが得られたことを示唆し、今後は中和活性を誘導できる構造の作製を決定したい。
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