研究概要 |
我々は、転写因子の一つであるWT1がほとんどの急性白血病症例の白血病細胞で正常骨髄細胞の10-100倍のレベルで高発現している事を見出し、この研究成果を微少残存白血病細胞のモニターや再発の早期発見に臨床応用してきた。 その一方で、臨床応用と平行して、白血病細胞におけるWT1高発現の持つ生物学的意義に関する検索を押し進めてきた。すでに以前に、WT1に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドが白血病細胞の増殖を抑制する事が示されており、さらに最近、マウス未熟骨髄細胞由来IL-3依存性細胞株32DはG-CSF存在下で増殖が低下し成熟顆粒球に分化するがWT1を強制発現させた32DはG-CSF存在下でもその増殖が低下せず、また、WT1を強制発現していない32Dに比べて分化が抑制される事が明らかにされた。これらの結果によりWT1の過剰発現が白血病発症において重要な意義を持っている事が示唆された。 平成10年度は、上記の32Dを用いて得た実験結果をより一般化するために、細胞株の代わりに新鮮材料(マウス骨髄細胞)にWT1を強制発現させ、32Dの場合と同様の現象を示すかどうかを検証した。5-FU処理したマウスの骨髄細胞(未熟造血細胞が濃縮されている)をin vitroに取り出し、発現ベクターに組み込んだWT1を感染させ、G418でselection後、G-CSFを含んだ半固形培地中で培養し、WT1非感染群とコロニーの数と質を比較した。その結果、WT1感染群において有意により多数のコロニー(CFU-GM,CFU-G,CFU-M)を認めた。またそれらのコロニーを形成している細胞の分化は、WT1非感染群で認められたコロニーを形成している細胞に比べて、抑制されている傾向が認められた。この結果により、WT1の過剰発現が未熟造血細胞においてoncogenicに働き得る事がより明らかにされた。
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