本研究では、抗リン脂質抗体症候群(以下APS)のモデル動物を用いてリン脂質に対するモノクローナル抗体を作製しそのエピトープを同定する。さらに、血小板や内皮細胞におけるphospholipid(PL)の細胞膜表面への発現機序を明らかにすることで、APSにおける血栓形成機構のメカニズムの一旦を明らかにし、新しい治療法の可能性を検討する事を目的としている。 抗リン脂質抗体のエピトープの決定:今回、APSモデルマウスより作製したβ2GPIを認識するモノクローナル抗体のエピトープを決定するために、5つのドメインをもつβ2GPIの各ドメイン部分を個別に欠失させた変異蛋白を作製し抗体との結合を検討した。その結果、何れの抗体もこれら変異蛋白とは結合しないことが判明した。このことからaPLの対応抗原は5つのドメイン部分からなる立体構造により構成されていると考えられた。 細胞膜表面へのPS発現機構に関する検討:aPLの血栓形成にはphospholipid-binding protein(β2GPI、annexin Vなど)が膜表面上のPL[カルジオリピン(CL)、phosphatigylserine(PS)など]に結合することが重要であるが、これらは通常膜の内側に存在しており、アポトーシス時にしか外側へ露出してこない。我々は各種アゴニスト刺激により血小板膜表面上にCLやPSがどのように発現されるか(膜のflip-flop)、APS患者と正常との間で検討した。その結果、APS患者血小板において膜上へのPL誘導がわずかに亢進しておりaPLの血栓形成機序(Fcレセプターを介した血小板の活性化など)を考える上で重要と考えられた。
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