ウィルムス腫瘍抑制遺伝子WTlは、ウィルムス腫瘍の原因遺伝子として単離されたが、造血幹細胞及び白血病細胞で高レベルの発現が見られることより、白血病発症への関与も想定されていた。この点を明らかにする目的で、小児白血病86症例においてWTlの変異解析を行った。その結果、WTlの変異は急性骨髄性白血病46例中6例(13%)に認められた。それらはWTlの転写調節機構を司るZnフィンガー領域の機能異常をきたす変異であった。また、ウィルムス腫瘍に見られるWTlの変異の多くがホモ接合性であるのに対して、白血病における変異の大多数はへテロ接合性であった。このことは、変異型WTlがドミナントネガティブ効果を有する可能性を示唆するものである。さらに予後との相関では、WTlの変異の存在は予後不良との明らかな相関が見られた。以上の結果より、WTlの変異は急性骨髄性白血病の進展に深く関与するものと考えられた。 このようなWTlの生体内での機能を実験的に明らかにする目的で、ジーンターゲッティング法によってWTl変異マウスの作製を試みた。その結果、Znフィンガー領域の機能異常を有するヘテロ接合性マウスは腎硬化症を発症することが明らかとなった。その組織型はヒトのWTl変異症例に見られる腎症と同一のものであったことより、WTlのへテロ接合性変異は遺伝性腎硬化症の原因となることが証明された。一方、白血病をはじめとする造血異常はこれらのマウスでは現在まで観察されていない。そのため、ヒト造血細胞においてジーンターゲッティング法で変異WTlを導入することでWTl変異の白血病発症への関与を実験的に証明することを試みている。
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