ウイルス腫瘍遺伝子WT1は我々のこれまでの研究により、小児白血病のうちで急性骨髄性白血病に限って13%において機能的ドメインであるZnフィンガー領域に変異をおこしていることが明らかとなった。しかもその変異は、白血病の予後不良と明らかに相関していることより、予後不良が特徴である二次性白血病におけるWT1の変異解析を施行した。その結果、6例中1例においてZnフィンガーの消失をきたす変異が同定された。この症例は子宮頸癌に対して放射線療法を施行した症例であり、それに続発して急性骨髄性白血病が発症した。これまでの報告と異なる点は、発症後2年以上経過しても再発せず予後良好な症例であるという点である。 このような白血病において変異をきたしているWT1の機能を検討するために、ES細胞よりWT1のダブルノックアウト細胞を作製した。機能的ドメインであるZnフィンガー領域にneo耐性遺伝子を挿入することにより、白血病に見られるタイプの変異と同様の変異体を作製した。ノックアウト細胞の細胞増殖能及び放射線感受性に関しては野生型と明らかな差はみられなかった。WT1は標的とする遺伝子の転写機能を調節することによってその機能を発揮するとされ、既に20種類におよぶ標的遺伝子が同定されている。そこで、これらの遺伝子の発現レベルが野生型とノックアウトES細胞で変化しているかどうかをノーザン法及びRT-PCR法で解析した。その結果、いずれの遺伝子においても明らかな発現の差はみられなかった。この事実はWT1の機能発揮が必ずしも転写制御だけによるものではないことを示唆する。WT1抗体による免疫組織染色では核内におけるWT1の局在は、転写ドメインよりはスプライスドメインであることが明らかであるため、WT1は転写後発現調節に関わっている可能性が強い。
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