ウィルムス腫瘍遺伝子WT1は小児のウィルムス腫瘍の原因遺伝子として単離されたが、造血前駆細胞や白血病において発現していることにより、その機能異常の白血病発症における役割が注目されてきた。そこで我々は成人小児の様々な白血病における大規模な変異解析を行なった。その結果、WT1の変異は白血病のなかでは急性骨髄性白血病に限られること、一次性と二次性においては頻度に差がないことが明らかとなった。さらにWT1変異陽性例は、一例を除いてすべてが治療抵抗性となる予後不良例であった。このことはWT1の機能異常が白血病の進展に関与するものであることを示唆するものである。 WT1は標的となる遺伝子のプロモーター領域に結合して、その転写を調節する転写因子として知られている。既にその標的遺伝子はIGF2を初めとして20数種類が同定されている。ところが、それらの発現変化は必ずしもWT1の発現変化とともに動くことがないことより、それらが生体内での真のWT1の標的であることは疑問視されてきた。この点を明らかにするためにWT1のダブルノックアウトES細胞を作製した。この細胞と野生型ES細胞との比較においてWT1の発現変化に伴って発現が変化する遺伝子をDNAアレイを用いてスクリーニングした。その結果、既知の標的遺伝子の候補の発現変化は確認できなかった。蛋白質相互作用の実験より、WT1はスプライス因子と結合することが証明されている。以上の実験結果を考えると、WT1の機能は転写調節そのものよりも転写後発現調節に関わる可能性の方が強いものと考えられる。
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