研究概要 |
当該研究の実施計画に従い、成人T細胞白血病(ATL)細胞についてmethylthioadenosine phosphorylase(MTAP)遺伝子をサザンブロット法で検討した。その結果、検討した末梢血由来のATL細胞41例中5例(12.2%)で、MTAP遺伝子の全てまたは一部のexonの欠損が証明された。興味深いことに欠損が認められたのは全て急性型の症例であり、欠損例は短期間の間(8カ月未満)に死亡していた。また、全例でMTAP遺伝子の欠損は癌抑制遺伝子の一つであるp16遺伝子の欠損を伴っていた。p15/p16遺伝子の欠損はATLの増悪進展に関与していることが明らかにされており、増悪進展に伴ってp15/p16/MTAP近傍の遺伝子が一括して欠落することが推測された。 私達の施設で樹立した株化ATL細胞についても同様な検討を行った。全ての株化ATL細胞(SO4,ST1,KK1)はMTAP遺伝子の全てまたは一部のexonを欠損していた。MTAP遺伝子欠損細胞は、methylthioadenosine(MeSAdo)からのmethionineやpurineの再利用ができなくなるため、methionineの欠乏状態に高感受性であることが予測される。そこでこれらの細胞を用いて、methionine欠乏状態の細胞増殖に与える影響を検討した。その結果、他の株細胞と比較し、ATL株細胞の増殖は培養液中のmethionine濃度に極めて依存性が高いことが明らかになった。培養液にMeSAdoを添加することによってMTAP遺伝子を保有するRaji細胞ではmethionine欠乏状態が解消され、細胞は増殖力を回復したが、MTAPを持たないATL株細胞ではMeSAdo添加の効果を認めなかった。これら一連の実験結果は、L-methioninaseのATLにおける抗癌剤としての有用性を示唆した。更にpurine合成阻害剤であるalanosineの抗腫瘍効果やL-methioninaseとの併用効果についても現在解析を進めている。
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