昨年度に引き続き成人T細胞白血病(ATL)細胞についてmethylthioadenosine phosphorylase(MTAP)遺伝子欠損の有無をサザンブロット法で検討するとともに、さらに感度を上げる目的でreal-time PCR法を用いてMTAPのexon 8を定量し、サザンブロット法の結果と比較検討した。その結果、real-timePCRを行った29例中6例(20.7%)にMTAP遺伝子のhomozygousなdeletionが確認され、これまでのサザンブロット法による結果(約10%)よりも高率であることが判明した。この結果はMTAP酵素欠損を利用したATLに対する治療法が、これまでのサザンブロット法による予測よりもより多くの症例に適用できることを示している。以上のデータは既に論文化されているかまたは印刷中の状態にある。更に研究実施計画に沿って研究を進め、現在exon 8についてreal-time RT-PCR法を用いてmRNAの定量を行っているが、MTAP遺伝子が欠損していない症例ではむしろMTAPの発現が亢進した状態にあるという予想外の結果も得られつつある。 MTAP酵素保有細胞(正常細胞)を温存し、MTAP酵素欠損細胞(ATL細胞)を特異的に障害する治療法の研究は、独自に樹立したATL株細胞を用いて行った。adenosine monophosphate(AMP)を合成する経路には、MTAP酵素によるsalvage経路とde novo合成経路の二通りがある。l-alanosineはde novo合成を障害するため、MTAPを持たない細胞はl-alanosineに対してより高い感受性を示すことが予測される。実際MTAP欠損ATL株細胞はMTAP温存ATL株細胞よりも約十倍程度低いIC_<50>値を示した。患者末梢血由来のATL細胞も正常リンパ球と比較して高い感受性を示すことから、l-alanosineはMTAP欠損ATLに対する抗癌剤として有用と考えられた。以上のデータについては現在論文執筆中である。
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