当初の研究計画に基づき、通常の化学療法では極めて予後不良である成人T細胞白血病(ATL)に対する、methylthioadenosine phosphorylase(MTAP)遺伝子欠損を利用した新しい分子標的治療法の基礎的研究を行った。 サザンプロット法を用いてMTAP遺伝子の解析を行い、ATL患者の約12%に遺伝子欠損が観察され、そのほとんどは癌抑制遺伝子であるp15/p16遺伝子の欠損を伴うことを明らかにした。検出感度を上げる目的でreal-time PCR法を用いてMTAP遺伝子exon 8の定量を行ったところ、20%以上の症例にMTAP遺伝子のhomozygousな欠損が確認された。以上の結果から、MTAP遺伝子欠損を利用した治療法が、これまでのサザンプロット法による予測よりもより多くの症例に適用できることが明らかになった。更に研究実施計画に沿って研究を進め、exon 8についてreal-time RT-PCR法を用いてmRNAの定量を行い、当該治療法の対象となる症例の検討を進めている。 MTAPはmethylthioadenosine(MTA)を分解することによって、細胞にmethionineやadenineの再利用(salvage)をもたらしている。そのため、MTAP遺伝子を欠損する細胞はmethionineの欠乏状態やde novo purine合成阻害剤に対して高感受性になっている可能性がある。独自に樹立したATL株細胞を用いて検討を行い、MTAP遺伝子欠損株細胞(SO4、ST1、KK1)はMTAP保有株細胞(KOB、OMT)と比較して外来のmethionineに依存性であり、またpurine合成阻害剤である1-alanosineに対して高い感受性を示すことが明らかになった。患者末梢血由来のATL細胞も正常リンパ球と比較して高い1-alanosine感受性を示すことから、1-alanosineはMTAP欠損症例の治療薬として有望であることを明らかにした。1-alanosineとmethionine分解酵素である1-methioninaseとの併用療法による相乗効果についても現在検討を進めている。
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