好酸球は、アレルギー疾患・寄生虫疾患・悪性腫瘍など広範囲な病態において重要な役割を果たしている。骨髄細胞からの好酸球分化に関与する転写制御因子を明かにすることを研究の目的とし、好酸球に特異的に発現しているEosinophil majorbasic protein(MBP)の遺伝子発現の調節機序を解析した。 MBPは、好酸球・好塩基球およびトロホブラストに発現している好塩基性顆粒蛋白質であり、喘息などの好酸球性炎症や寄生虫疾患に重要な役割を果たしている。MBP遺伝子は32kb離れてエクソン1とエクソン9の5'上流に各々P1およびP2の二つのプロモーター領域が存在するが、好酸球に特異的なプロモーターはP2であり、P1プロモーターはトロホブラストに特異的であることを明らかにした。このP2プロモーターの解析から、促進的に作用するシスエレメントを同定し、その中でGATA結合領域がMBP遺伝子発現に重要な領域であることを示した。さらに、GATA結合領域の7bp上流にC/EBP結合領域が認められ、そのうちC/EBPβがGATA-1と協調してMBP遺伝子発現を増強させることも明かにした。 以上の結果から、GATA-1とC/EBPが好酸球分化の転写調節に関与することが明らかになった。GATA-1は、元来、赤血球系分化に重要な転写因子として単離され、数多くの報告がなされている。一方、好酸球分化においてGATA-1が重要な役割を果たしているという報告は、我々とThomas Grafの研究室からだけである。従来、好酸球は好中球・単球・好酸球の三系統に分化し得る前駆細胞から分化すると考えられていた。しかし、これらの研究結果から、骨髄系細胞だけからではなく、赤芽球と好酸球に分化できる前駆細胞からも好酸球が分化するということが予想される。したがって、好酸球分化には複数の経路が存在し、好酸球自体の異質性が存在することも考えられる。今後は、転写因子の使われ方により機能的に異なった好酸球が分化するか否かを明らかにする。
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