TEL-AML1をはじめとする小児急性リンパ性白血病(ALL)の病因となるキメラ転写因子の生物学的機能を検討するために、造血細胞のサイトカイン依存性アポトーシスを制御する分子メカニズムを分析した。細胞内シグナル伝達経路のこれまでの検討から、Ras経路の活性化がアポトーシスの抑制に必須であることが確立している。一方、アポトーシスを制御する上で最も重要なプロセスはミトコンドリア外膜上のBcl-2スーパーファミリー因子が、シトクロームCの細胞質内への移動を制御することにあることがわかってきた。そのためわれわれは、サイトカインがRas経路を介してその発現を制御するBcl-2ファミリー因子が、造血細胞の生死を決定する鍵となる因子であると考え、その同定を試みた。まず、サイトカインによって支配されているBcl-2ファミリー因子としてBcl-xLとBimが同定されたが、前者の発現調節にRasは関与していないことが判明した。BimはBH3ドメインを通じてアポトーシスに導くBH3因子群のメンバーであるが、サイトカインはRas経路の活性化を通じてBimの発現を抑制していることが明らかとなった。すなわち造血細胞においては自殺遺伝子であるBimが発現しようとするのを、サイトカインがRas経路の活性化を通じてこれを阻止するのがその生存の基本であると考えられた。われわれは種々の白血病細胞株で、Bimの発現を検討したが、特にBcr-abl発現細胞でその発現が抑制されていることを見出した。アポトーシスの抑制は白血化にとって必須のプロセスと考えれるので、キメラ因子の機能とBimの関連についてさらに検討を進める考えである。
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