研究概要 |
悪性腫瘍に対する新たな治療法の確立には,腫瘍細胞のアポトーシスと増殖を制御するシグナル伝達系の異常を明確にする事が重要である。ERK_1/ERK_2 mitogen-activated protein kinase(MAPK)はRskを活性化してBADやCREBをリン酸化すること,ヒストンH3に作用することなどにより細胞のアポトーシスを抑制し,転写を促進する可能性が示された。しかし急性骨髄性白血病の増殖にMAPKの活性化は必要ないとの報告もある。我々は急性骨髄性白血病(AML)症例から得た細胞及びAML細胞株を用いて,種々の造血因子によるMAPK活性と増殖作用との関連性を検討した。G-CSF,IL-3は有意な正の相関性をもってMAPK活性と増殖を促進した。一方,SCF,flt-3Lは正の相関傾向を示したが有意ではなく,TNF-αは全く相関傾向を示さなかった。複数の造血因子による増殖の相乗作用にはMAPKはほとんど関与していなかった。現在MAPKとJNK/P38の両者のバランスを明らかにしている。 MAPKは腫瘍細胞のautocrine増殖,血管新生,接着因子のシグナル伝達,matrix metalloproteinase産生に重要であることが明らかにされつつある。我々は種々の血液腫瘍細胞がangiopoietin-1やVEGFをはじめとする様々な血管新生促進因子遺伝子を発現し,蛋白を産生することを明らかにしている。どのような因子を産生するかは各血液疾患群で異なる。またサリドマイドはVEGFなどの血管新生因子産生を抑制した。MAPKが血管新生因子産生にどのように関与するかさらに検討中である。
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