(1)原因不明の遺伝性非球状性溶血性貧血の診断 原因不明の遺伝性溶血性貧血症例96家系を検索し、グルコース-6-リン酸脱水素酵素異常症12例、ピルビン酸キナーゼ異常症3例、ホスホフルクトキナーゼ異常症1例を発見した。 (2)ヒトヘキソキナーゼI型遺伝子の構造解析とヘキソキナーゼ異常症の遺伝子解析 HKにはIからIV型の4種のアイソザイムが存在する。成熟赤血球の主要なアイソザイムはHK-Iであるが、最近新たに赤血球特異的なR型HK(HK-R)が同定された。HK-I遺伝子構造は全長67kb以上で19のエクソンから構成されていた。HK-I遺伝子5'末端を含むコスミドクローンの解析から、HK-RおよびHK-Iに特異的なN末端のアミノ酸は約3kb離れた別のエクソンにコードされ、HK-RとHK-I遺伝子の異なるプロモーターから転写されることが判明した。引き続いて、明らかにした遺伝子構造を基にHK異常症本邦第1例の遺伝子異常を検討した。症例は胎生29週女児で子宮内胎児発達遅延および著名な貧血を認めた。患児の赤血球HK活性は正常対照の約15%、両親は約50%に低下しており、HK異常症と診断した。胎児は脳質周囲白質軟化症を合併し、37週で子宮内死亡した。患児HK-I遺伝子の各エクソンについてPCR増幅を試みたところ、エクソン5-8のみPCR産物が得られず、また網赤血球mRNAの解析ではエクソン5-8領域を欠失する異常HKcDNAのみが認められた。異常HKではフレームシフトが生じ、HK-1とHK-R活性は完全に欠損する。イントロン4および8の構造解析および患者HK-I遺伝子の欠失部分のクローニングにより、患児はHK-I遺伝子の約9kbに達する遺伝子内欠失のホモ接合対であることが明らかになった。 (3)エノラーゼ異常症の遺伝子解析で同定したヒトαエノラーゼ遺伝子異常 われわれは日本人エノラーゼ異常症症例について解析し、αエノラーゼの分子異常を同定した。患児は8歳男児で、慢性溶血性貧血を呈した。赤血球エノラーゼ活性は発端者が約50%に低下し、両親にも活性低下が認められた。患児網赤血球より全RNAを抽出し、αエノラーゼcDNA全翻訳領域を含む1415bpをRT-PCR法で増幅した。このPCR産物および8つのプライマーを用いてdirect sequencingで塩基配列を解析した結果、ミスセンス変異548CGC→CAC(Arg183His)を同定した。ゲノムの解析から発端者と母がこの変異に関してヘテロ接合体であることが明らかになった。
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