10年度は、in vitroの系において造血幹細胞とストローマ細胞間にMHC(特にClass IA)の拘束性が存在することを明らかにした。今年度は、これらの機序について解明するため、MHC class Iに対するモノクローナル抗体(mAb)を用いて解析を行った。HSCとストローマ細胞の共培養にHSCのMHC class Iに対するmAbを加えると、HSCとストローマ細胞のMHCが一致している場合においても不一致の場合においてもcobblestoneの形成は、著しく低下した(30〜50%)。それに対して、HSCとストローマ細胞のMHCが不一致の場合において、ストローマ細胞のMHC class Iに対するmAbを加えると、cobblestoneの形成は、著しく亢進した(200〜300%)。このcobblestone形成の低下あるいは亢進は、H-2Kに対する抗体でも、H-2Dに対する抗体でもほぼ同様に認められた。HSCとストローマ細胞双方のphenotypeにunrelatedなmAbを加えた場合には、cobblestoneの形成に影響は認められなかった。また、HSCあるいはストローマ細胞のMHC class II(I-A)に対するmAbを加えてもcobblestoneの形成に影響は認められなかった。cobblestone形成の亢進が認められたストローマ細胞のMHC class Iに対するmAbの添加においては、MHCが不一致のHSCの存在下でSCF、Flt3-ligand、bFGF、IL-6などのprimitive precursorsに作用する造血促進因子の発現が亢進していた。造血促進因子の発現の亢進は、HSCの非存在下では、抗体を加えても認められなかった。また、HSCとストローマ細胞のMHCが一致している場合には、これら造血促進因子の発現も亢進に加え、MIP1αやTGFβ1などの造血抑制因子の発現が抑制される傾向にあり、これらのことがMHC拘束性を導くの機序のひとつとして考えられた。
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