研究概要 |
これまでに、致死量の放射線を照射した宿主マウスに骨髄細胞を静注すると同時に、異なった主要組織適合抗原(MHC)phenotypeを有する大腿骨を皮下に移植する実験や、異なったMHC phenotypeのマウスにおける脾コロニーの形成の実験において、注入した造血細胞が自己と同じMHCを有する移植骨あるいは宿主マウスの脾臓にきわめて有意に集積し、異なったMHCを有する移植骨あるいは脾臓には、ほとんど集積しないことを見いだ、造血幹細胞(HSC)の造血微小環境での増殖分化において、HSCとストローマ細胞間にMHC拘束性(preference)が存在ではないかと考えられた。このMHC拘束性をさらに明らかにするため、in vitroの系においてMHC拘束性の解析を行った。 マウスからHSC(5FU-resistant,Lin^-Sca-1^+)を分離し、MHCが一致、あるいは不一致の胎児骨由来ストローマ細胞と共培養させたところ、形成されるcobblestone colonyの数は、MHC不一致のストローマ細胞培養中ではMHCが一致の場合の30〜50%であった。しかし、HSCあるいはストローマ細胞のいずれか一方をMHC class I分子を発現しないマウスから分離したものにすると、MHCが一致の場合も不一致の場合も同程度のcolony形成がみられた。また、HSCとストローマ細胞の共培養にHSCのMHC class I分子に対するモノクローナル抗体(mAb)を加えると、HSCとストローマ細胞のMHCが一致している場合においても不一致の場合においてもcobblestoneの形成が著しく低下した(30〜50%)。それに対して、ストローマ細胞のMHC class I分子に対するmAbを加えると、cobblestoneの形成は、著しく亢進した(200〜300%)。さらに、ストローマ細胞のMHC class I分子に対するmAbの添加によりcobblestone形成の亢進が認められた培養では、stem cell factor、Flt3 ligand、basic fibroblast growth factor、interleukin-6などのprimitive precurorsに作用する造血因子の発現が亢進しており、HSCとストローマ細胞MHCが一致の場合にも同様な造血因子の亢進が認められた。これらの結果から、MHC拘束性は、MHCのclassに依存しており、HSCとストローマ細胞のMHC class Iが一致した場合には、ストローマ細胞のMHC class I分子から造血支持能を亢進するためのシグナルが伝達されるものと思われた。
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