「目的」;近年、Jak/STATが細胞シグナル伝達経路として注目されている。サイトカインのレセプターへの結合は細胞質Jak/STAT蛋白をチロシンリン酸化し、リン酸化されたSTATは、核内に移行しGASシークエンス{TT(C/A)CNNNAA}に結合し転写を誘導する。 申請者は、IL-1刺激により、STAT1のN末端抗体にて認識される分子量52KDのSTAT様因子(STAT/IL-1因子)がチロシンリン酸化されることを見出した。この因子はヒトIL-1β遺伝子を誘導する転写因子であり、GASとsingle point mismatchを有するTTCCTGAGAというヒトIL-1β遺伝子のGAS類似シークエンス(GAS/IL-1)を特異的に認識する。 特に九州に多く見られる成人T細胞性白血病(ATL)の腫瘍細胞は、IL-1蛋白を恒常的に産生しており、IL-1はATL細胞の活性化及び増殖刺激因子として働くことが知られている。我々は、ATLにおけるSTAT/IL-1因子の活性化の有無を明らかにして、IL-1のよる白血病細胞のオートクライン増殖機構を解明したい。 「方法」;申請者は、ゲルシフトアッセイ(EMSA)を用いて患者ATL細胞においてSTAT/IL-1因子が、恒常的に活性化されているかを検討した。EMSAは、ヒトIL-1β遺伝子エンハンサーGASシークエンス(GAS/IL-1)を放射線標識したものをプローブとした。患者ATL細胞を単離し、細胞核抽出液を作成した。これら細胞核抽出液を^<32>P放射線ラベルGAS/IL-1DNAプローブとインキュベートし、GAS/IL-1プローブに結合するSTAT/IL-1蛋白を解析した。また、ヒトIL-1β遺伝子のGAS類似シークエンス(GAS/IL-1)を組み込んだCATベクターを作成して、ATL細胞に遺伝子導入しSTAT/IL-1因子のIL-1β遺伝子に及ぼす転写活性を測定した。 「結果」;ATL細胞では、活性化STAT/IL-1のGAS/IL-1への恒常的結合が観察され、ATL細胞においては、STAT/IL-1因子が恒常的に活性化されていることが考えられた。さらに、ATL細胞にGAS/IL-1シークエンスを有するCATベクターを導入した結果、ほとんどのATL細胞においてGAS/IL-1シークエンスは恒常的に誘導されていることが明らかとなった。
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