研究概要 |
平成10年度の研究成果示す。 1、 既に永野はリゾフォスファチジン酸(LPA)と血小板由来増殖因子(PDGF)によるラット初代培養メサンギウム細胞の相乗的増殖促進作用を報告してきたが、今回永野は、このLPAのヒトの腎炎における重要な働きを仮説的総説としてまとめ提示した(Clin.Sci.96:431-436,1999)。また実際に予想した通り、IgA腎症の患者の腎生検に際して得られた標本から顕微鏡下に腎糸球体を単離し、RT-PCR法によって重症IgA腎症患者において発現するLPAレセプター(Edg4)の存在を見い出した。 2、 更にラット初代培養メサンギウム細胞を用いてLPAとPDGFの相互作用について解析し以下の新たな知見を得た。 (1)PDGF(50ng/ml)により細胞増殖と細胞死という異なる現象を同時に誘導できた。一方LPA(30μM)の存在下において同量のPDGFを用いて細胞を刺激しても細胞死がおこらず、結果的にDNA合成と細胞数の相乗的増加が得られた。(2)LPAはBclXL蛋白合成を誘導し、一方BclXLmRNAに対するアンチセンスオリゴDNAは濃度依存的にLPAのPDGFに対する相乗的DNA合成促進作用を抑制し、かつ細胞死を誘導した。(3)PDGFにより刺激を受けた細胞において、アポトーシス関連酵素であるカスパーゼ3の蛋白レベルでの発現増加をみとめたが、LPAにはこの酵素の誘導作用がなかった。 以上の結果は、PDGFがメサンギウム細胞のDNA合成と細胞死の両面に働き、一方、LPAはBclXLを介してPDGFにより誘導される細胞死を抑制することにより、細胞数の増加を導くことを示す。また、PDGFによる細胞死はカスパーゼ3の活性化を介するアポトーシスであることが示唆された。この一連の研究により、我々は初代培養メサンギウム細胞において、アポトーシスが誘導、あるいは抑制される実験系を確立することが出来た。現在上記実験結果を投稿準備中であると同時に、ヒト増殖性腎炎の進展機序としてこのメカニズムがあてはまるかどうかを検証している。
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