研究概要 |
我々はこれまで水溶性リン脂質であるリゾフォスファチジン酸(LPA)により誘導される細胞内情報伝達系を解析し、LPAをメサンギウム細胞に対する新しい増殖因子として位置付けて欧米誌に報告してきたが、本研究においては、さらにLPAの血小板由来増殖因子(PDGF)に対する相乗的増殖促進作用に着目しそのメカニズムを解析した。その結果、PDGFは従来考えられてきたような増殖因子としての機能に加えて、メサンギウム細胞に対し、濃度依存的に増殖とアポトーシス(細胞死)を同時に誘導する"もろ刃の剣"であることを、DNA ladderの検出と細胞核の形態学的観察により証明した。一方、LPAはBcl-2ファミリー蛋白であるbcl-xl mRNAを誘導し、Bcl-xL蛋白を介してPDGFにより誘導される細胞死に対し延命因子として働くことも見い出した。これらの結果はbcl-xl mRNAに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドが濃度依存的にLPAのPDGFに対する相乗的細胞増殖作用を阻害することによっても裏付けられた。ヒトの腎炎の進行におけるメサンギウム細胞死の抑制については病理組織標本上においては予測されてきたがこれまでその機序は不明であった。我々の得た知見はLPAがこの細胞死抑制により腎炎の進展に深く関わっている可能性を示唆しており、永野はこの事を新しいメサンギウム増殖性糸球体腎炎進展モデルとして提唱した(Inoue CN et al.Clin Sci 96 : 431-436,1999)。詳細な実験データは、平成11年日本腎臓学会と、1999年米国腎臓学会においても発表され、現在論文は投稿中である。
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