IgA腎症の発症の病因解明に関する研究(IgA腎症扁桃リンパ球のHaemophilus parainfluenzae抗原に対する特異的抗体産生について)

1999 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 10670991
• 研究機関: 福井医科大学
• 研究代表者: 鈴木 享 福井医科大学, 医学部, 助教授 (00206484)
• キーワード: IgA nephropathy / Haemophilus parainfluenzae / outer membrane / tonsil / mucosal immunity / lymphocyte function / cytokine

研究概要

本研究では、IgA腎症の発症の原因としてのIgA型免疫複合体の原因抗原として、Heamophilus parainfluenzae(HP)の外膜成分に焦点を絞り、本症患者の扁桃組織中リンパ球の、HPの外膜抗原に対する特異的IgA抗体の産生機序を解明することを目的とし、研究を遂行した。そのため、研究実施計画に沿って、IgA腎症例と腎機能正常な慢性扁桃炎例(対照群)において、HPの外膜構成成分に対する、患者の扁桃組織中リンパ球のHP抗原に対する特異的免疫グロブリン産生の解析を、リンパ球培養上清中のIgA1およびIgA2型抗HP抗体価、およびサイトカインを測定することにより行い、以下に示す新たな知見を得た。
1.IgA腎症患者および対照群の扁桃組織中リンパ球を、HP菌体外膜抗原にて刺激し、ELISAによる培養上清中IgA1型抗HP抗体価の検討を行った結果、IgA腎症患者における刺激指数[Stimualtion Index(SI):刺激後のリンパ球によるIgA1型抗HP抗体価(OD)/刺激前の同抗体価(OD)]は、対照群患者における刺激指数に比して、有意に高値を示した。
2.リンパ球培養上清中IgA2型抗HP抗体価の刺激指数は、IgA腎症および対照群の間において、有意な差は認められなかった。
3.IgA腎症患者および対照群の扁桃組織中リンパ球を、HP菌体外膜抗原にて刺激し、ELISAによる培養上清中IL-10とTGF-β濃度の検討を行った結果、両群とも、HP菌体外膜抗原刺激における産生量は、非刺激下での産生量に比べ、有意に高値を示した。
4.IgA腎症患者および対照群の扁桃組織中リンパ球を、HP菌体外膜抗原にて刺激し、ELISAによる培養上清中IL-4とIL-6濃度の検討を行った結果、両群ともHP菌体外膜抗原刺激による産生量に、有意な差は認められなかった。
以上より、IgA腎症患者の扁桃組織中リンパ球はHP菌体外膜抗原に対してサイトカインの産生亢進を伴うIgAクラススイッチによる抗体産生系が活性化されており、特異的にIgA型抗HP抗体を産生することにより、IgA腎症の発症機序において、HP菌体外膜抗原が扁桃を中心とした局所免疫機構にとり重要な役割を果す、との結論を得た。

研究成果

• [文献書誌] Satoru Suzuki: "Synthesis of immunoglobulins against Haemophilus parainfluenzae by tonsillar lymphocytes from patients with IgA nephropathy"Nephrology Dialysis Transplantation. (in press).
• [文献書誌] Satoru Suzuki: "Immune response of tonsillar lymphocytes to Haemophilus parainfluenzae in patients with IgA nephropathy"Clinical and Experimental Immunology. (in press).
• [文献書誌] Satoru Suzuki: "Increased rates of IgA synthesis against Haemophilus parainfluenzae antigens by tonsillar lymphocytes from patients with IgA nephropathy"Nephrology. 5. A2 (1999)
• [文献書誌] Hideki Maegawa: "Distribution of IgA-, IgG-, and IgM-producing plasma cells in palatine tonsils of patients with IgA nephropathy"Nephrology. 5. A3 (1999)
• [文献書誌] Chie Yamamoto: "Experimental IgA nephropathy induced by Haemophilus parainfluenzae antigens"Nephrology. 5. A4 (1999)
• [文献書誌] 藤枝重治: "扁桃における細菌に対するIgA産生能:IgA腎症と慢性扁桃炎の比較"11. 239-244 (1999)
• [文献書誌] 藤枝重治: "扁桃における細菌感染と免疫グロブリン産生"臨床病理. 47. 724-729 (1999)
• [文献書誌] 山本智恵: "Haemophilus parainfluenzaeとIgA腎症"臨床病理. 47. 730-736 (1999)
• [文献書誌] 鈴木 亨: "IgA腎症の病因抗原:Haemophilus parainfluenzae菌体外膜抗原の関与"190. 2-7 (1999)
• [文献書誌] 鈴木 亨: "IgA腎症の抗原解析:Haemophilus parainfluenzaeの関与"小児内科. 31. 1025-1028 (1999)