本研究では、IgA腎症の発症の病因としてのIgA型免疫複合体の原因抗原として、Haemophilus parainf luenzae(HP)の外膜成分に焦点を絞り、本症患者の扁桃組織中リンパ球の、HPの外膜抗原に対する特異的IgA抗体の産生機序を解明することを目的とし、研究を遂行したところ以下に示す新たな知見を得た。 1.IgA腎症患者および対照群の扁桃組織中リンパ球を、HP菌体外膜抗原にて刺激したところ、培養上清中IgA型抗HP抗体価はIgA腎症群において有意に高値を示した。一方、2.IgGおよびIgM型抗HP抗体価は、両群において、有意な差は認められなかった。3.グラム陰性菌との対比のために、同様の検討を緑膿菌の外膜抗原について行ったところ、IgA、IgGおよびIgM型抗HP抗体価の産生は、両群間において、有意な差は認められなかった。4.IgA腎症群において、培養上清中のHPに対するIgA型とIgG型、IgA型とIgM型、およびIgG型とIgM型抗体価の間に、有意な正の相関を認めた。一方、対照群においては、IgG型とIgM型の抗体価の関係においてのみ正の相関を認めた。5.両群の扁桃組織中リンパ球を、HP菌体外膜抗原にて刺激したところ、培養上清中IgA1型抗HP抗体価は、IgA腎症群において、対照群に比して、有意に高値を示した。一方、6.培養上清中IgA2型抗HP抗体価は、両群間において、有意な差は認められなかった。7.両群の扁桃組織中リンパ球を、HP菌体外膜抗原にて刺激したところ、培養上清中IL-10とTGF-β濃度は、両群とも、HP菌体外膜抗原刺激により、有意に上昇を示した。一方、8.培養上清中IL-4とIL-6濃度においては、両群ともHP菌体外膜抗原刺激による有意な差は認められなかった。 以上より、IgA腎症患者の扁桃組織中リンパ球はHP菌体外膜抗原に対してサイトカインの産生亢進を伴うIgAクラススイッチによる抗体産生系が活性化されており、特異的にIgA1型抗HP抗体を産生することにより、IgA腎症の発症機序において、HP菌体外膜抗原が扁桃を中心とした局所免疫機構にとり重要な役割を果す、との結論を得た。
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