研究概要 |
セレクチン及びそのリガンド糖鎖は炎症の発症・進展に重要な働きをしている。また、一般の炎症のみならず凝固においても白血球の浸潤が大変重要である。進行性腎障害における接着分子の関与は重要な研究対象であるが、血栓形成を伴う腎障害におけるセレクチンやリガンド糖鎖を発現する糖転移酵素の関与については十分に解明されていない。本研究ではまず、ラット糸球体内血栓形成腎炎を用いた動物実験において、セレクチンを介する白血球や血小板の接着が糸球体内血栓形成を惹起するかどうか、について検討した。ラット糸球体内血栓形成腎炎は、LPSで前処置したラットに家兎抗ラットGBM抗体を静注して作成した。その結果、 1,ラット糸球体内血栓形成腎炎では、糸球体内にP-セレクチンの発現を認めたが、L-セレクチンのリガンドやE-セレクチンは認めない 2,Cyclophosphamideにて血中の白血球を完全に除去すると、糸球体内血栓形成がほぼ完全に抑制される 3,抗P-セレクチン抗体を投与すると、有意に糸球体内への白血球や血小板の浸潤が抑制され、約50%の血栓形成抑制効果を認める、ことが判明し、P-セレクチンは白血球-内皮細胞の接着及び血小板を介する白血球-白血球の接着に関与し、糸球体内血栓形成に重要であることが証明された。次に、セレクチンのリガンド糖鎖の発現に重要である糖転移酵素のひとつであるN-acetylglucosamine-6-o-sulfotransferaseの発現及びこの酵素により誘導される糖鎖抗原の発現を胎児腎組織において検討した。この結果、 1,N-acetylglucosamine-o-sulfotransferaseのmRNAの発現は上皮細胞において強く認められるが、この酵素により誘導される6-sulfo LewisXや6-sulfo sialylLewisXなどの糖鎖抗原は腎上皮細胞では認められなかった。この事実より、腎におけるセレクチンのリガンド糖鎖の発現には、フコース転移酵素やシアル酸転移酵素がより重要である可能性が示唆された。
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