研究代表者らは、糖尿病動物の腎糸球体においてプロテインキナーゼC(PKC)活性化およびmitogenactivated protein kinase(MAPK)活性化が認められ、これら代謝異常が早期腎症の発症に対して重要な役割を果たしている可能性を提唱してきた。しかし、PKC-MAPK経路の活性化が、糖尿病性腎症の組織学的特徴であるメサンギウム領域の拡大・糸球体硬化すなわち腎症の進展および腎機能低下に関連しているか否かは未だ明かではない。そこで、アロキサン誘発1型糖尿病ラット及び2型糖尿病モデルdb/dbマウスにPKCβ阻害剤を、それぞれ6あるいは4ヵ月に及ぶ長期間投与し、糸球体PKC-MAPK活性の測定および組織学的検討を行うことにより、PKC-MAPK活性化と糸球体硬化の関連性を検討した。機能的には、PKCβ阻害剤投与により糖尿病群で認められた腎糸球体PKC活性化と共に尿中アルブミン排泄量の増加が有意に改善された。組織学的にも、糖尿病群で認められたメサンギウム領域の拡大、すなわち糸球体硬化がPKCβ阻害剤投与により改善されていた。免疫組織学的検討においては、PKCβ阻害剤投与により糖尿病群に認められたメサンギウム領域の4型コラーゲン、ファイブロネクチン過剰蓄積の減少及び糖尿病群に認められたメサンギウム領域のTGF-β発現の増強が改善されていた。また、PKCβ阻害剤投与により実験動物の体重、血圧、血糖値は、非投与と比較して差を認めなっかった。以上の結果から、糖尿病状態における腎糸球体PKC活性化が糖尿病性腎症の組織学的特徴である糸球体硬化症を発症、進展させ得ることが明かとなり、PKC阻害剤が糖尿病性腎症に対する有用な治療手段となり得る可能性が示唆された。
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