対象と方法:麻酔下の9-25週齢の高血圧自然発症ラット(SHR)を用い、腎クリアランスと微小穿刺実験を行った。さらに9-10週齢のSHRで、アデノシンとアドレノメジュリンの影響を検討した。ヘンレ係蹄灌流時の近位尿細管stop flow圧(SFP)の減少率により尿細管糸球体フィードバック(TGF)の反応性を評価した。SFPは糸球体内圧を反映する。 成績:1)9-10週齢よりSHRの全身血圧は高い。GFRは正常血圧WKYラットと差はないが、腎血漿流量(RPF)はSHRで小、腎血管抵抗(RVR)はSHRで大きい。14-16週齢でも同所見である。2)SHRとWKYのSFP減少率は、9-10週齢でそれぞれ33、22%とSHRで大である。14-16週齢では両群の減少率は28%と差はない。適齢間では非灌流時のSFPに差はない。3)アデノシンA1受容体拮抗薬を全身投与すると、SFPの減少率は明らかに小となり、糸球体内圧は上昇、TGF曲線は上方向にシフトした。全身血圧は不変、RVRは下降、GFRとRPFは増加し、Na排泄率(FENa)は増加した。4)アドレノメジュリンを全身投与すると、SFPの減少率はWKYと同程度にまで小さくなった。糸球体内圧は不変、TGF曲線は尿細管液流量増大の方向(右)にシフトした。全身血圧とRVRは下降、GFRは不変、RPFは増加、FENaは軽度増加した。 結論:SHRのTGF反応は9-10週齢の高血圧発症初期では亢進し、糸球体内圧は正常域にある。A1受容体拮抗薬とアドレノメジュリンは、ともにTGFの亢進を抑制する。前者は輸入細動脈拡張により糸球体高血圧と過剰濾過をもたらし、後者は輸入、輸出両細動脈の拡張により糸球体内圧を正常に保つ。アドレノメジュリンは、TGFの正常化、Na利尿、全身血圧の下降に働いて、SHRの糸球体硬化の発症、進展を抑制する可能性がある。
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