研究概要 |
まず,ラット及びマウスの分泌型のNa-K-2Cl cotransporter(NKCCl)の腎内局在を明らかにした。マウスでは髄質内層集合尿細管(IMCD)に最も発現が強いが,ラットでは髄質外層集合尿細管(OMCD)に最も発現が強く,集合尿細管以外の部位では発現が見られず,マウスと異なり,より局在していることが判明した。次に,ラットのNKCClについて検討した。まず,脱水や慢性代謝性アシドーシスで、集合尿細管でのmRNA及び蛋白発現が増加することがRT-competitive PCR及びWestern blotにて判明した。このNKCClの発現調節を司る因子を探るため,単離したOMCDを用いて検討した。OMCDをincubationする浸透圧を上げていくと,NKCClmRNA発現が増加し,890mOsmで最大となった。次に,抗利尿ホルモン(ADH)存在下でincubationすると,NKCClmRNA発現はやはり増加した。Osmotic minipumpを用いて,ラットに大量のADHを投与してもNKCClmRNAの発現は増加した。以上のことより,NKCClは体液の生理的変化に応じて発現が変化し,浸透圧やADHが調節因子となっていることが判明した。 V2及びV1aというADHの2種類の受容体の遺伝子レベルでの発現調節に関しても検討した。ラットのOMCDを用いて、ADHとincubationするとV2受容体のmRNA発現が増加する。それにV1a受容体の拮抗薬を入れるとV2受容体mRNAの発現はさらに増加した。このことは、V2受容体の発現はV1a受容体によって、遺伝子レベルでも調節されていることを意味している。V1a受容体はV2受容体の抗利尿作用を抑制することから、尿中に排泄されるADHは、抗利尿ホルモンでなく、利尿ホルモンであることをさらに確認した。腎不全ラットでは、V1a受容体の蛋白発現が増加しており、腎不全患者でのFENa(糸球体で濾過されたNaのうち尿中に排泄される割合)増加にV1a受容体が深く関与していることが明らかとなった。 以上のことより、NKCCl,V2受容体、V1a受容体のいずれも腎不全時のNa排泄調節に関与していることが明かとなった。
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