我々は、平成10年度までにNZBならびにNZWそれぞれにγ鎖ノックアウトマウスの遺伝子交配を6代以上完了し、この交配したNZBならひにNZWマウスからさらにBWF1マウスを作製、γ鎖に関して(+/+)、(+/-)、(-/-)と3種類のグループに分け、その自然経過を観察した。自己抗体の発現およびそれらの糸球体への沈着に関して、3群間に有意な差を認めなかった。γ鎖に関して(+/+)、つまりwild typeでは生後約1年までに全例(約15匹)か、ループス腎炎を発症し大量の蛋白尿、および血尿を呈し死亡した。驚くべきことに、γ鎖に関して(-/-)、すなわち機能的なFcRの発現を欠くBWF1・γ(-/-)マウスでは経過中(約1年半)、一切の蛋白尿・血尿を示さず、全例が生存することが確認された。このことは、ループス腎炎発症においてFcRが鍵を握る分子であることを明白に示している。もう1つ興味深いのは、γ鎖に関して(+/-)のへテロマウスでは、wild typeに比し尿蛋白の出現が明らかに遅れ、その生存率も有意に延長することである。これは、FcRの表現型により(おそらくここでは量的な表現型の差により)糸球体腎炎の病態が影響を受ける可能性を示している。このことは、糸球体腎炎の個体差、増悪・寛解、臓器特異性などを説明する上で、重要なヒントを与えるものと考えられる。今後は、腎組織の詳細な解析を行い、腎炎発症に関与するFcR陽性細胞を特定し、さらにその機能解析を行う予定である。
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