我々は先にラット腹膜透析(PD)モデルを用い、2週間の透析期間中に腹膜AQP1、AQP4水チャネル遺伝子発現に変化が見られることを見出した。今回、より臨床的PDを反映すると思われる2ヶ月間の実験的PDを試み、限外濾過機能・溶質除去機能とAPQ1およびAQP4水チャネル遺伝子発現について検討した。ラット腹腔内に小カテーテルを留置し、無麻酔下に透析液交換(一日2回)及び検体採取を行った。透析液には生理食塩水(対照群)と糖濃度1.35%及び4.0%のヒトCAPD用透析後(50ml/kg B.W.)を用い、56日間の透析期間中に除水量(限外濾過量)を測定した。また実験前後で腹膜を採取し、組織学的検討並びに抽出したmRNAを用いRT-PCR-ELISA法及びin situ hybridization法によりAQP1及びAQP4の遺伝子発現量と発現パターン解析を行った。限外濾過量は透析開始初期に増加した後一定となったが、5週後以降は漸減する傾向が見られた。組織学的には透析後の腹膜に中皮細胞の脱落や中皮下組織の繊維化の傾向が見られたが、その変化は軽度であった。遺伝子発現についてはAQP1、AQP4ともに発現量低下の傾向が見られたが統計学的有意差は得られず、in situ hybridizationでも腹膜毛細血管内皮での発現にやや低下傾向が見られるに止まった。 一方短期実験で得られた一過性のAQP遺伝子発現増加への物理的進展刺激の関与を考え、in vivo 実験としてラット腹腔内にバルーン付きカテーテルを留置、10-15mlの生理食塩水を注入し、経時的にmRNA発現量の検討を行った。またin vitro実験としてラット壁側腹膜よりコラゲネース処理で得られた中皮細胞をシリコン製培養容器上で培養し、30%の静的伸展刺激及び60Hzの伸縮刺激を負荷し、経時的にmRNA発現量の検討を行った。In vivo実験ではday3をピークとする一過性の発現量が見られ、透析によらない腹膜の進展でもAQP遺伝子発現が誘導されることが確認された。しかしin vitro実験では明らかな発現変化は確認できなかった。以上の結果より長期PD患者に見られる限外濾過不全にAQP遺伝子発現が関与する可能性が示唆されたものの、なお長期間での検討が必要と思われた。一方短期的なAQP遺伝子発現増加には間接的な腹膜進展刺激が関与すると思われ、臨床的に観察される一時的なPD休止後の限外濾過量増加を反映するものである可能性が考えられた。
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