アルポート症候群は、伴性優性遺伝型、常染色体劣性遺伝型、および常染色体優性遺伝型の各型が存在するうえに、診断には腎生検組織の電子顕微鏡による観察が必要であるために、腎臓専門医にとって診断に苦慮する疾患のひとつである。本研究の目的は、分子遺伝学やIV型コラーゲンα鎖の免疫組織学の新知見を盛り込んだ新しい診断基準を確立することにある。 本研究は2年間で行う計画である。初年度の平成10年度は主に、全国諸施設から委託された症例について、遺伝子変異の同定と腎生検のa鎖免疫組織学的解析を施行した。これらの中に多くの非典型例があることが判明した。これらは、従来の診断基準では、基準を満たさずに診断を誤ってしまう可能性があった。そこでこれらの症例を抽出し、その問題点を検討すれば、より実用的な新しい診断基準を作成するうえで重要な情報となるものと期待される。 また、平成10年度において、アルポート症候群患者の尿中における糸球体上皮細胞の特殊性について解析した。本症は糸球体基底膜の網状性変化や断裂を生じる疾患であるので、この基底膜の外側に位置する糸球体上皮細胞には、物理学的・生化学的な影響が起こることが充分に予想される。そこで、尿中の糸球体上皮細胞に注目して、本症に特徴的な所見を確認したので、さらに現在症例を増やして検討中である。これによって、本症の間接的な診断が可能となるものと期待され、前項と同様に、平成11年度も研究を継続する予定である。
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