まず、われわれは新たにクローニングしてきたヒトヨードポンプのcDNAを用いて、大腸菌に蛋白を発現させ、作成した分子量8000kDのペプチドを家兎に免疫し、2種類の抗体を得た。これらを用いてヒト甲状腺組織を免疫染色すると、正常甲状腺に比ベ41%の乳頭癌ではヒトヨードポンプの蛋白発現(75-80kD)が増加していた。甲状腺組織を用いたウエスタンブロット解析でも同様の結果を得た。甲状腺組織から抽出したmRNAを用い、より感度のよいcRNAをプローブにしてノーザンブロット解析を行ってもこれを裏付ける結果を得た。すなわち、甲状腺乳頭癌では発現しているヨードポンプの活性が低下していると考えられるので、その阻害要因を検討することになった。以前、短時間アクチノマイシンに暴露した培養甲状腺細胞FRTL-5でのヨード摂取能が亢進していたので、何らかの阻害蛋白が存在し、甲状腺癌の一部でのヨード取り込みを抑制していることが推測される。そこで、ヨードポンプ蛋白のC末端からの欠失変異をいくつか作成し、CHO細胞に発現させ、その放射性ヨード摂取を見た。発現されたヨードポンプは全長643アミノ酸に比ベC末端側から93アミノ酸を欠失させるとその活性を失うことがわかった。欠失が63アミノ酸ではこのような活性低下は見られなかった。したがって、この30アミノ酸の部分がヨードポンプの機能に重要であることがわかった。今後は、この30アミノ酸の部分に結合し機能を抑制する蛋白を単離し、遺伝子治療を前提とした甲状腺癌の放射線ヨード治療の可能性を検討していく予定である。
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