従来我々はラット、およびマウスの脂肪細胞およびそれらの培養細胞にTSH受容体(TSHR)が存在し、このことがバセドウ病眼症の病因としての後眼窩脂肪組織のTSHR発現のメカニズムを知る上で重要であることを報告してきた。平成10年度の研究成果は以下の通りである。 1. 3T3-L1培養脂肪細胞においてTSHRの発現はPPARγの発現により規定される。 1: 3T3-L1培養脂肪細胞でのTSHR発現に先だってPPARγのが発現する。 2: PPARγの活性化剤を培養液中に添加するとTSHRの発現が増強する。 3: PPARγの作用を増強するインスリンによりTSHRの発現は増強し、作用を抑制する各種サイトカインにより抑制される。 4: PPARγ2をアデノヴィルスを用いて強制大量発現させるとTSHRの発現が増大する。 2. 一方同じく3T3-L1培養脂肪細胞を用いたTSHRの5'上流の研究で以下の成果を得た。 1: プライマーエクステンションおよびnested PCRにて-89から-68までの間に数ヵ所の転写開始点を認めた。 2: -146から-90に脂肪特異的、分化特異的発現を制御する部位が存在し、特に-146から-127のCRElikeの配列と-112から-106のEts結合部位が重要と考えられた。このことはdeletion mutantおよびfoot printの両実験において明らかとした。 3: 2の配列を用いたEMSAにおいて、分化特異的に誘導される同部位へ結合する転写因子の存在が示唆された。
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