甲状腺ホルモン受容体はレチノイン酸受容体と二量体を形成して細胞周期を調節する事実を培養細胞を用いて確認した。その方法として一つは細胞のアポトーシスを誘導、もう一つは細胞分化を誘導する。いずれも核内への甲状腺ホルモンの情報は細胞周期のS期に集中するため、転写因子としての作用がこれらを支配するものと推定された。これらの二つの方法は、レチノイン酸受容体の存在様式によって異なる可能性を発見した。すなわち、パートナーとしてのRXRとRARとではそれぞれの経路への情報量が異なる。これらの事実は甲状腺ホルモン受容体のパートナーとなる受容体によって細胞周期をコントロールする機構があることを示唆する。しかし、それらは、単にレチノイン酸受容体の存在量によるものか、あるいはその正常変化によるものかの鑑別はついていない。研究者らは、その一端として、ヌクレオゾームからのヒストン蛋白質の暴露に関与する複数の蛋白質がパートナーの選択に係わっている可能性を示したが、その機構を活性化させるとアポトーシスは増強されるものの、細胞分化への関与は低い可能性も示された。その機構の解明は個体発生における細胞分化の調節、癌化あるいは脱癌化のメカニズムを知る上で重要なテーマと考えられる。いずれにしても、これらの発見は、悪性疾患での治療に甲状腺ホルモン作用を介したレチノイン酸の応用が可能であることを示しており、さらに、パートナーの活性化によって、最終目的に沿った治療法の開発が可能であることを示した。
|