今日、潜在的な患者も含めて我が国には500万人以上の糖尿病患者がいるといわれ、今後さらなる患者の増加が予想されている。そしてこれまでのインスリンなどによる治療に代わる、より抜本的な治療法の開発が求められている。その一つとして膵島移植が注目されているが、免疫系からの攻撃に対する方策を講じる必要がある。そこで本研究では、免疫制御機構に関与する分子の影響を検討するため、これらの分子を膵島で発現するトランスジェニック(Tg)マウスを、自己免疫性糖尿病のモデルであるNODマウスで作製し検討を加えた。糖尿病発症にはTh1の関与が重要とされており、Th1を制御するサイトカインとして、EBウイルス由来でインターロイキン(IL)-10と高い相同性を有するviral IL-10(vlL-10)が注目されている。そこでα細胞でvIL-10が発現するようにグルカゴンプロモーターの下流にvIL-10cDNAをつないだDNAを導入し、vIL-10Tgマウスを作製した。糖尿病の発症率を検討したところ、対照群の73.4%に対し、vIL-10Tgでは15%と顕著に抑制されていた。近年、過酸化水素やNitoric Oxideなどの酸化ストレスによる膵β細胞障害の関与が示唆されている。そこで抗酸化ストレス作用を持つthioredoxin(TRX)を膵島で発現するIns-TRX Tgマウスを作製した。その糖尿病発症率は、対照群では81%であったのに対し、Ins-TRXでは17%と顕著に抑制されており、NODマウスにおける糖尿病発症において酸化ストレスが深く関与することが示唆された。 以上の結果より、vIL-10やTRXがβ細胞障害に抑制的に働くことがあきらかとなった。今後、これらのマウスの膵島を用いて移植を行い免疫反応の解析を進めてゆく予定であり、効率的膵まし移植に関する有用な知見が得られるものと期待される。
|