研究概要 |
〈目的〉我々は本邦例のアンドロゲン不応症を多数解析した結果、臨床症状、内分泌学的成績は完全型来丸性女性化症に完全に一致するにもかかわらず、アンドロゲン受容体遺伝子に異常を認めず、また、本症患者の陰部皮膚線維芽細胞のアンドロゲン受容体へのリガンド結合活性も正常である症例を見い出した。レポーター遺伝子を用いた本症例の培養皮膚線維芽細胞におけるアンドロゲン依存性の転写活性化能は全く検出できなかった。即ち、本症例は共役因子cofactor群の異常によるアンドロゲン不応症であることが強く示唆された。本研究では(1)本症例の解析によりcofactor病の疾患概念を確立する。(2)本症例で欠損しているcofactorをクローニングすることにより、アンドロゲン受容体に特異的なcofactorの構造と特性を解明する。 〈本年度の研究計画と成果〉正常の皮膚線維芽細胞および、アンドロゲン受容体遺伝子に変異を認めない睾丸性女性化症の皮膚線維芽細胞にアンドロゲン応答配列を上流に、また下流にルシフェラーゼ遺伝子を連結したMMTVプロモーターを導入、同時にアンドロゲン受容体(AR)またはグルココルチコイド受容体(GR)発現ベクターを導入し、各々のリガンド依存性転写活性を測定することにより、以下の結果を得た。核内受容体はN末側に恒常的転写促進部位(AF1)、C末側にリガンド誘導性転写促進部位(AF2)が存在する。GRとARのAFl、AF2ドメイン、各々のフラグメント、あるいは、GRとARのAF1、AF2ドメインを入れ替えたキメラ受容体を作成し、正常と本症例で転写活性化能を比較した結果、本症例ではARのAF1ドメインからの転写活性化シグナルの基本転写装置への伝達が途絶していることが判明した。このAF1からの転写活性化シグナル伝達障害は既知のAF2特異的共役因子(p300,TIF2,SRC-1)の強制発現では回復できなかった。以上の結果はARのAF1に特異的な未知の因子が本症例では欠損していることを強く示唆するもので、本年度の研究で上記〈目的〉の(1)をほぼ達成した。
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