バセドウ病の甲状腺濾胞細胞には主要組織適合抗原(MHC)classII分子が異所性に発現し、自己免疫機序の引き金として、あるいは本症の増悪・進展に関与している。本研究では、バセドウ病の甲状腺濾胞細胞において、MHC classII遺伝子の発現に必須の転写因子であるCIITAの発現の有無を検討し、CIITA遺伝子のどのプロモーターが発現に関与しているかを検討した。手術で得たバセドウ病甲状腺組織をコラゲナーゼ処理し、マクロファージを除去したのち単層培養して甲状腺濾胞細胞を得た。これよりmRNAを抽出してRT-PCR法によりCIITAの発現を検討したところ、バセドウ病の甲状腺濾胞細胞にはCIITAが発現していることが明らかになった。その発現に関与するCIITA遺伝子のプロモーターはpromoterIVであった。甲状腺細胞をinterferon-gamma(IFNg)で刺激すると、promoter IVによる発現増加を介してCIITAの発現を増強した。さらにCIITA発現増加には甲状腺組織を得た患者間でIFNgに対する感受性に差が認められた。CIITA promoter IVのIFNg応答配列と考えられる領域をPCRで増幅しSSCPにより塩基配列の多様性の有無を検討したが、検索した領域内には明らかな多様性は見いだせず、IFNgに対する感受性の差異の原因はまだ不明である。 本研究ではTSH受容体遺伝子あるいはMHC class II遺伝子の発現を制御する転写因子を分子標的とする治療薬剤の探索を目的にしているが、甲状腺細胞におけるMHC class II遺伝子発現に関わるCIITAの発現調節機構が明らかになったので、次年度以降、これらの転写因子に作用する薬剤についてさらに検討を進める予定である。
|