バセドウ病の甲状腺濾胞細胞には主要組織適合抗原(MHC) class II分子が異所性に発現し、自己免疫機序の引き金として、あるいは本症の増悪・進展に関与している。我々は、このMHC class II分子の発現を制御する薬物が本症をはじめ種々の自己免疫疾患の治療薬として有用なのではないかと考え、甲状腺細胞をモデルにその探索を行っている。 我々は昨年度まで研究で、甲状腺刺激ホルモン受容体(TSHR)遺伝子とMHC class II遺伝子の発現に共通の転写因子、TSEP-1/YB-1が抑制的に働いていることを見いだした。そこで、この転写因子を介してバセドウ病の自己抗原であるTSHRとMHC class II分子の発現制御が可能なのではないかと考え、これらの遺伝子のプロモーター活性に影響を与える薬剤を探索している。これまでにニコチン酸アミドがこれら2つの遺伝子のプロモーター活性を増強することを見いだし、これはニコチン酸アミドが抑制因子TSEP-1/YB-1の発現を抑制するためであることを報告した。しかし、このニコチン酸アミドの効果はむしろ治療薬としての可能性とは相反するものであるため、さらに新たな薬剤の効果を検討中である。さらに、昨年度までの研究で、MHC class II分子のバセドウ病甲状腺細胞における異所性発現に関与するMHC class II遺伝子のプロモーターを明らかにしたので、このプロモーターに作用してMHC class II発現を抑制する薬剤も併せて探索している。 これらの薬剤の探索を慢性関節リウマチなどの他の自己免疫疾患の治療にもつなげたいと考えている。
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