研究概要 |
インスリン様成長因子II(IGF-II)の病態生理学的意義に関して以下に示す検討を行った。 血糖を呈するIGF-II生産膵外腫瘍での低血糖の発症機構の検討:低血糖を呈する膵外腫瘍(non-islet cell tumorhypoglycemia:NICTH)にはIGF-IIを産土するものがあるが,このIGF-II産生NICTHでは血中IGF-IIは必ずしも高値でなく,IGF-II値のみで本症の低血糖を説明することはできない。この低血糖の発症にlGF-IIの作用を調節するIGFBPが関与することが考えられている。IGFBP-3はその多くは150kDaのIGF-IGFBP-3-ALSの三量体として存在するが,他のIGFBP同様に血中ではIGF-IGFBP複合体の二量体(〜40kDa)としても存在する。我々は本症では血中IGFBP-3の減少,IGFBP-2の増加およびIGF-IIは三量体を形成せず,多くは二量体として存在することを報告してきた。二量体IGF-IIは遊離型IGF-II同様に毛細血管を通過しうるが,三量体IGF-IIは通過できず,この三量体の形成不全がbioavailableなlGF-IIの増加を来たし,低血糖を引き起こすのではないかと考えられる。そこで,IGF-II産生NICTH33例において,三量体の構成成分であるALSをRIAおよびWestern immunoblot(WIB)にて測定した。血中ALS値は0.5〜11.6mg/Lに分布し,平均3.5±0.5mg/Lと健常成人に比し有意に低値であった(16.2±0.5mg/L:P<0.001)。腫瘍を摘出後,低血糖が消失した6例では,術後,血中ALS値は有意に増加した(5.9±1.4mg/L,vs11.2±1.8mg/L;P0.05)。WIBでは<血中ALSは健常人と同様に80/78kDaのdupletとして検出され,ALSのサイズに差異を認めなかった。WIBで測定した血中ALS値(管理血清の%で算出)は28.3±3.8%と低値であり,この値はRIAで測定したALS値と有意な正の相関を認めた(r=0.85,P<0.0001)。以上の成績はIGF-II産生NICTHでの三量体形成不全にALSの減少が関与することを示唆するものである。また,本症での大分子量IGF-II自身の変化が低血糖に関与することが考えられる。本症の大分子量IGF-IIは正常にもわずか認められる大分子量IGF-IIと同様に0型糖鎖と結合したpro-IGF-II-(El-21)であったが,その糖鎮のサイズは症例によって異なり,正常でみられるものよりも大であった。 腫瘍組織におけるIGF-II遺云子のloss of imprinting(LOI)に関する検討:IGF-II産生NICTH,副腎腫瘍でのIGF-II遺伝子のLOIについて最近開発されたallele-specific PCR法を用いて検討中である。
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