研究概要 |
インスリン様成長因子II(IGF-II)の病態生理学的意義に関して以下に示す検討を行った。 腫瘍組織におけるIGF-II遺伝子のloss of imprinting(LOI)に関する検討:IGF-II遺伝子は母親由来の対立遺伝子が発現せず,父親由来対立遺伝子のみが発現している(genomic imprinting)。IGF-IIが腫瘍の成長,増殖に関与するが,一部の腫瘍の発症機序としてloss of imprinting(LOI)により生ずるIGF-II遺伝子の過剰発現が想定されている。我々は腫瘍におけるIGF-II遺伝子のLOIについて,Apa Iによるexon9内の制限酵素断片長多型を用い検討してきた。Ape Iによる切断は時として不明瞭な結果をきたすことがあり,この問題を解決するためにAllele-Specific PCR(AS-PCR)法を用いて低血糖を呈する膵外腫瘍(Non-islet cell tumor hypoglycemia:NICTH)におけるIGF-II遺伝子のLOIについて検討した。IGF-II遺伝子は検討した10例の組織で全てに発現しており,7例がヘテロ接合体であった。この7例のうち5例にLOIが認められた。Ape Iによる制限酵素断片長多型を用いた方法と比較したところ、Ape Iを用いた場合一例においてLOIが認められるともとれる薄いバンドを検出したが,AS-PCRでは認めなかった。以上の成績によりAS-PCR法はIGF-II遺伝子のLOIを検討するために,簡便かつ有用な方法であることが示唆された。 抽出操作なしの血清IGF-IIのWesterm immunoblotの臨床応用の有用性の検討:IGF-II産生NICTHのスクリーニングにはWestern immunoblot(WIB)法による大分子量のIGF-IIの測定が有用であるが,IGF-IIは血中でIGFBPと結合して存在するため、WIBのサンプルとして血清IGF-IIの酸-エタノール抽出物を用いてきた。本研究ではこの前処理なしに全血清を用いて,より簡便に大分子量IGF-IIの検出が可能か否か検討した。血清量として4〜10μLを用いて抽出操作なしのWIBでは酸-エタノール抽出物を用いたWIBと同様にIGF-IIのサイズの解析は可能であり,より簡便にスクリーニングしうる方法であると考えられた。
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